大判例

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最高裁判所第二小法廷 平成8年(行ツ)257号 判決 1997年11月28日

兵庫県尼崎市東園田町五丁目五〇番地

上告人

藤田ビル株式会社

右代表者代表取締役

藤田平男

同五五番地

上告人

藤田平男

右両名訴訟代理人弁護士

大野康平

兵庫県尼崎市西難波町一丁目八番一号

被上告人

尼崎税務署長 中村成明

右指定代理人

大竹聖一

右当事者間の大阪高等裁判所平成四年(行コ)第五三号法人税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が平成八年八月二九日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人大野康平の上告理由について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない。論旨は、違憲をいう点を含め、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づき若しくは原判決を正解しないでこれを論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博)

(平成八年(行ツ)第二五七号 上告人 藤田ビル株式会社 外一名)

上告代理人大野康平の上告理由

第一点 法令違背

原判決には、以下のべるとおり法令の違背があり、その違背が判決に影響を及ぼすことが明らかである。

一 原判決は、上告人らの「敷金・保証金に係る債務は、承継時における現況を算定すべきであり、複利現価方式により算定した経済的利益の額を控除した残額を譲渡価額に算入すべきである。」、「敷金・保証金の返還債務は、相続税における債務控除における債務と同様に考えるべきである。」との趣旨の主張に対し、「しかし、本件の訴訟は、法人税法あるいは所得税法における債務の額について争われているものであるところ、法人税あるいは所得税においては、現実に換価された財産の価額を基礎とし、換価額自体で所得の計算を行うのであり、原則として、評価の問題は生じないのである。」としてこれを排斥した(原判決一三丁表二行目以下、第一審判決二一丁裏六行目から八行目まで、二二丁裏五行目から一一行目まで。これは第一審判決の判文と同一であり、また、被上告人の第一審における主張内容ともほとんど同文である。)。これは法人税法・所得税法の解釈を誤ったものである。

二 上告人らは前記主張の根拠として、「相続税の更正等処分請求事件」にかかる最高裁判所昭和四九年九月二〇日第三小法廷判決を援用し、また、租税法に明るい吉良実教授の論稿(甲第五七号証および甲第五八号証)を証拠提出して、詳しく所説をのべた。

しかるに原判決は、前記のとおり「法人税法・所得税法においては、原則として評価の問題は生じない」との結論のみを示し、その理由をほとんど開示しない。法律問題は、裁判所の専権に属するにしても、本件のようにこれが訴訟の最大争点の一にあたるばあいは、その法的見解を詳しく開示して国民の納得を求めるべきである。原判決のような判示の仕方では理由をのべていないのに等しい。法人税法・所得税法にあっては長期無利子債務の評価方法につき明文では定められていないのであるから、そのような実定法と原判決のような判例でこの問題を律することは、租税法律主義という憲法規範に違背するというべきである。

第二点 理由不備・理由齟齬

一 原判決は争点1および争点6(修正申告が上告人藤田ビル株式会社《以下「上告会社」といい、その代表者藤田平男を「上告人藤田平男」という。》の代表者の真意に基づくものといえるか、および課税上の信義則違反の争点)について、いずれも上告人らの主張を排斥している。その理由は、争点1について事実関係の認定をし、争点6についてはこの事実関係を前提として判断するという構成をとっているので、まず争点1について論ずる。

二 争点1についての事実認定の根拠として原判決が吟味した証拠は甲第五一号証、八二号証、八五号証、一一一号証の一および同号証の二、乙第三号証、四号証の一ないし七、控訴審における控訴人藤田平男本人の供述ならびに「弁論の全趣旨」である。

しかるになぜか、事実認定につき裁判所を覇束する(審判権排除効)被上告人の「自白」にふれるところがない。この自白は、第一審の段階ですでになされているものであって(一審被告の平成元年三月二〇日付第三準備書面のうち、とくに六丁表二の(1)から七丁表の(3)までの部分)、要点はつぎのとおりである。

<1> 問題となる一九八三年(昭和五八年)一二月二六日の上告会社の修正申告よりも前に、被上告人の職員が、えせ同和団体である「全日本同和会大阪府連合会北摂支部」の人物(支部長)である前仲奉文と、約二ヶ月にわたり頻繁に面談し、取引をしたこと。

<2> その間、上告会社の代表者本人とはいちども面接しなかったこと。

<3> 前記取引の内容としては、「預かり保証金等を売買代金として加算する。」、その一方で、「偽造と疑われる借用証書の一部を(全く同じパターンの別の一部を除外する。)採用して、貸倒れ損金に算入することを認める。」こと。

<4> その衡に当たった被上告人の職員が上告会社作成名義の修正申告書を「代筆」したこと。

三 以上の重大な自白事実に、原審が自ら引用する前記各証拠(ことに上告人藤田平男の原審調書一三項)ならびに甲第八三号証(一九八一年《昭和五六年》六月期にかかる上告会社の「修正申告書」であるが、作成日付は一九八三年《昭和五八年》一二月二六日である。上告人藤田平男の原審供述を証拠引用する以上は、この書証が切り離し付着しているのであり、これを無視することは採証法則に反する。)によれば、被上告人は、前記の貸倒れ損金をつくり出す細工をした折りに、上告会社の「貸倒れ」が一九八三年(昭和五八年)六月期の会計年度にいちどに発生したのではなく、これを遡ること二年前の会計年度から累積していたものであるという虚構の事実を作出することに、えせ同和団体の人物と共同して積極的に加担したことが明らかである。もとより上告人藤田平男は、一九八三年一二月二六日の時点においては、このような犯罪行為が行なわれていたことを全く知らず、数年もあとになってこの事実を発見するのである。

乙第四号証の一ないし七(なお、甲第八四号証の一ない九参照)を、一見するだけで、本件の全貌と本態は直ちに判明する。税務の専門家が、こうしたでたらめなニセ書類の意味を、とりちがえることはありえない。それどころか、えせ同和と相図って、上告人藤田平男の知らない場所と時間帯において、これらの一部を採用し、一部は採らないという細工と取引を、密かに実行したのである。本件はまさに、納税者を食いものにするえせ同和とこれに癒着した税務職員らが相謀って、本人が望みもせず、かつ、法律上必要でもない修正申告をデッチ上げ、後日これに抗議した上告人藤田平男に対し税務職員が「だからどうしろというのか。異存があるというなら取り消して全部課税するまでだ。」などの発言をするという腐敗の構造から発し、これを地で行く更正・賦課決定をなしたという特異な事案である。一・二審判決はこの見やすい事実に目をつむり、腐敗の構造を放置することによって自らこれを温存し、擁護したものといわざるをえない。

四 原判決は信義則(争点6)につき判示するに当たり、反論しやすい一事をとりあげてこれを排斥するという安易な方法によっている。すなわち、かりに「前仲が昭和五八年一〇月ごろに控訴人藤田平男に『税務署と話合いができている。』と言ったことが事実であるとしても、右発言は抽象的でこの一事をもって直ちに具体的な合意があったことを推認することは困難であ」るというのである。上告人らはけっして「この一事」のみをもってことを論じているのではなく、前記のような自白事実と原判決じたいが吟味した証拠の内容に基づき主張しているのである。原判決はまた、前記の争点1にかんする事実認定において、「控訴人平男が、合計四億四〇〇〇万円の貸付をした旨架空の金銭消費貸借契約証書、借用証書等を作成してこれを前仲に提出し」たとか、「被控訴人の部下職員は、控訴人平男に代わってその目前で控訴人会社の社印及び代表者印を押捺し」たとかいう虚偽事実を認定している。かような事実は証拠のどこを探してもない。けっきょく原判決は、証拠の取捨選択ならびに評価に当たり採証法則を誤り、重要な自白事実を無視し、もって事案の本態を見誤った結果、本件修正申告の事実経過と信義則にかかる判断を誤ったものであり、適法は事実認定に基づく理由を付さないか、またはその理由に齟齬あるばあいに該当し破棄を免れないものである。

以上

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